猫について

保護されたものの譲渡されずシェルターで暮らす猫の生活と幸せは確保できる?

譲渡されない猫の居場所

猫の殺処分をゼロにするという目標を掲げる自治体や団体、そして個人が増えています。その目標を達成するためには、野良猫を保護して避妊・去勢し、室内飼育できる環境に移すことが必要です。

自治体や保護団体は、保護した野良猫を、飼育してくれる個人に譲渡することで殺処分を逃れさせるのを基本としています。

とはいえ、保護された猫たちすべてが新しい飼い主にもらわれて飼育されるわけではありません。年齢、健康状態、生活、容姿など、さまざまな理由から、なかなか譲渡先の見つからない猫もいるのです。保護されてから生涯を終えるまで、新しい飼い主が見つからないこともあります。

そのような猫を殺処分から守るために、保護シェルターが大きな役割を担っています。では、猫たちはシェルターでどのように暮らしているのでしょう。シェルターに居続けることは、猫にとって不幸なことなのでしょうか。

われわれは拾われた猫だけど、シェルターには行ったことないね

シェルターって、どういう生活なんだろうね

「居場所のない動物」はいかに統治されるのか?

龍谷大学の渡邉悟史准教授の論文「『居場所のない動物』はいかに統治されるのか?」では、猫がアニマルシェルターにおいてどのように生き、死んでいっているか、どのように世話されているかを調べ、レポートしています。

(参考)
渡邉悟史(2023)「『居場所のない動物』はいかに統治されるのか? ―アニマルシェルターにおける猫の統治実践から―」社会学評論74巻3号pp.537-553

シェルターで生活している猫たちのことを、この論文では「居場所のない動物」と呼んでいるものの、シェルターでも愛情を持って飼育されている様子が見て取れます。「居場所のない動物」とは、人間の家庭にも自然の野外にも帰属できない保護猫などで、その典型として民間の猫向けアニマルシェルターが注目されるのです。

近年、猫に関する動物政策では「屋内飼養の推進」が進められているものの、現実にはすべての猫が家庭に引き取られるわけではありません。殺処分を回避しつつも「どこにも行けない猫」は増加する傾向にあります。

本研究は、東京都内のある民間アニマルシェルターでのフィールドワークを通じ、猫に対してどのような「統治」が行われているかを明らかにします。統治とは単にケアや保護を意味するのではなく、「どのように生かし、どのように死なせるか」という生死のあり方を形成する働きかけ全般を指します。

シェルターでの統治の実践

このシェルターでは、猫の健康維持や感染症対策のための徹底した管理がなされています。スタッフは日々の「管理」業務を通して、猫に人間社会のルールに適応するよう求めながら、新しい飼い主の「家族」として譲渡可能な状態に導こうとしています。

また、SNSや広報活動を通じて、猫たちが見せる「リラックスした様子」や「かわいらしいしぐさ」を強調することで、譲渡先を探すだけでなく、支援や共感、寄付の獲得も図っています。猫はただのケア対象ではなく、シェルターの維持に「協働する存在」として統治されているのです。

「家族になる猫」と「ここで死ぬ猫」

シェルターで理想とされているのは「新しい家族とともに生きて死ぬ猫」です。つまり、譲渡されて新しい飼い主の家で終生飼育される状態です。その形を実現するために様々な努力が払われています。

しかし現実には、高齢猫や病気の猫の譲渡は難しく、シェルターで暮らし続けて最期を迎える猫も多くいます。スタッフにとって、シェルターで死ぬことは「失敗」として意味づけられることもあり、猫の死を扱わなければならないため苦悩の種です。

とはいえ、その死もまた丁寧にケアされています。SNSで記録・共有されることによって、猫の生きた証となるとともに、支援や共感を呼ぶ重要な要素ともなっています。

つまり、シェルターでは二重の統治が行われているのです。ひとつは「家族としての猫」を作るための統治、もうひとつは「シェルターで生死を完結させ、シェルターを存続させる猫」を作るための統治です。後者は明示的には語られず、隠れがちだが、現実的には不可欠な仕事となっています。

お外でビクビクしながら生活するよりシェルターの方がいいなあ

結論と提言

この論文は、「居場所のない動物」をいかに生かし、死なせるかという問いを通じて、アニマルシェルターの役割を一時避難所としてのみ捉えることから進化させることが必要とします。「家族」でも「野生」でもない第三の存在としての、生死をまっとうする空間としてシェルターを再構築する必要性を提起しているのです。

このような猫たちに対して、どのような居場所を制度的に保障できるのか。どのような「死なせ方」が倫理的に受容されるのかを含めた議論を求めています。

猫にとってのシェルター生活のメリットとデメリット

猫にとってのシェルター生活には、命を守られるという明確な利点がある一方で、ストレスや不自由さといった問題点もあります。シェルターは、猫にとって「命をつなぐ場」であると同時に「自由の制約された場」でもあるのです。

猫自身の意思ではなく、人間の論理や政策、制度によってその存在の意味が定義され、管理されていくという面が否応なく現れることがあります。猫の幸せ、シェルターの存続、倫理的な価値観、公衆衛生からの制約、さまざまな要素のバランスをとらなければなりません。

猫にとってのシェルター生活の「いい面」

命が守られる

飼い主がいない、野外で生きていけない猫が保護され、飢えや事故、病気から救われる。
殺処分されるリスクを避ける場として、生命のセーフティネットになっている。

医療とケアが受けられる

不妊去勢手術、ワクチン接種、健康管理、緊急時の獣医対応など、包括的な医療的ケアが提供される。
腎臓病やエイズキャリアなどの持病がある個体も、できる限りの治療と緩和ケアを受けられる。

温かい食事と安全な環境

エサ、水、トイレなどが整備され、温湿度管理された快適な室内で暮らせる。
寒さや外敵、交通事故などの心配がない。

人とのふれあいを通じた社会化

人馴れや穏やかな性格を育む機会があることで、譲渡への可能性が広がる。
スタッフとの関係性から、ある程度の愛情や信頼も得られる。

終の住処にもなりうる

譲渡されずとも、最期まで世話をされ、孤独死を避けられる。

猫にとってのシェルター生活の「悪い面」

自由が制限されるストレス

ケージ生活が長期に及び、運動不足やストレスを感じやすい。
エイズキャリアなどは他の猫と接触を避けるため、隔離される孤独もある。

人間中心の管理への適応が必要

感染症予防や安全確保のために、人間のルール(管理)に従うことを強いられる。
鳴き声や動き、性格に至るまで「統治」の対象とされ、本来の自由な行動が制限される。

譲渡されないことが“失敗”と見なされることがある

家族が見つからずにシェルターで死ぬことは、「失敗」とされ、存在価値が否定されがち。
スタッフにとっても精神的な負担となり、猫の死に方が社会的に価値づけられる側面がある。

見世物・広報の手段としての利用

SNSでの写真撮影や展示的扱いによって、猫自身がメディア資源と化すことがある。
人の前でリラックスしたり、可愛らしい動きを演じることが協力行動として期待される。

猫にとって譲渡されるのが絶対に幸せか

シェルターにはいくつかの制約や不便もあるものの、猫にとってシェルターでの生活と譲渡後の家庭での生活のどちらが幸せかは、一概には言えません。猫の性格、年齢、過去の経験、健康状態、そして受け入れる家庭の環境によって大きく左右されるからです。

新しい飼い主の家で飼育される場合と、シェルターで生活を続ける場合、比較して考えてみましょう。

家で飼われる(譲渡される)場合

利点

  • 人との深い関係が築ける:特定の飼い主と密接な絆を持てる
  • 落ち着いた環境で暮らせる:他の猫や犬がいない場合、ストレスが少ない
  • 自由な移動とくつろぎが可能:ケージから解放され、好きな場所で過ごせる
  • 生涯の住処となる可能性:安心して老後を迎えられる

課題・リスク

  • 飼い主の意識・知識・経済力に左右される
  • 外飼いや放置などで、逆に危険が増すこともある
  • 家庭の変化(離婚、引っ越し、出産など)で再び捨てられる可能性
  • 多頭飼育崩壊など不適切な環境に渡る危険性

シェルターで生活する場合

利点

  • 基本的な医療・栄養・安全が保障される
  • プロのスタッフによるケアが受けられる
  • 殺処分を避けるための保護空間として機能している
  • 「高齢」「病気」「人見知り」など、譲渡が難しい猫にとっての終の住処になりうる

課題・制約

  • ケージ生活や人為的な管理によるストレス
  • 他の動物との同居、騒音、匂いなどで落ち着かない
  • 「家庭に譲渡されない=失敗」として存在が軽視されがち
  • 人との関係が限定的になり、深い愛着を感じにくい可能性

どちらがより幸せかは猫次第

保護された猫は新しい飼い主を見つけて、その家の中で終生飼育されるのが幸せと考えられることが多くなっています。もちろん、理想的な家庭環境が整えば、制約も多いシェルターよりも譲渡された方がより幸せになれるでしょう。しかし、猫によってはシェルターの方が幸せに過ごせる場合があることも見逃せません。

例えば、人懐っこくて甘えん坊な猫であれば、家庭で家族からの愛情を一身に受ける方が幸せだと思えます。健康な猫や若い猫は、ケージ内にいる時間が多いシェルター生活よりも、自由に動き回って遊べる家で飼われた方が良いでしょう。

しかし、高齢や病弱で環境の変化が負担になる猫は、無理に譲渡されるよりもシェルターで安定した生活を続ける方が良いかもしれません。また、虐待経験があり人間を怖がる猫は、無理に家庭で人と近い生活を送るより、徐々に回復できるシェルターの方が安心できるでしょう。

ひとりぼっちで知らない人のところに行くのは怖いもんね… なかなか人に慣れなかったら、嫌われちゃうかもしれないし…

われわれのような怖がりが治らない生活だと特にね。一緒にもらわれて良かったけど、バラバラになるくらいならシェルターで一緒にいられた方が良かったかもねー

渡邉悟史准教授の論文でも、シェルターの中でも猫は名前を与えられ、大切にケアされ、SNSなどで社会的な存在として記憶されていることが示されています。つまり、誰かに見守られた生活と、その先にある死を迎えることができるのです。

猫にとっての幸せとは、人間が定義した理想の家庭像に回収されることではないと考えられます。その猫にとって安全で快適で、尊厳をもって生き、死ねる環境があることでしょう。その点で、シェルターの存在や役割が今後さらに大きくなるのかもしれません。

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