超高齢社会を迎えた日本では、人生の晩年を介護施設で過ごす人も増えてきました。そうした環境下で注目されているのが、高齢者と伴侶動物(コンパニオン・アニマル、以下CA)との共生です。
動物と一緒に暮らすことで得られるのは、単なる癒しにとどまりません。高齢者の生活の質(QOL)や精神的健康、社会的つながりにも深く関わっています。
この記事では、2024年に発表された論文「介護老人福祉施設における高齢者と伴侶動物の共生のための動物(犬・猫)への支援方法 ―SCATを通して―」の内容から、動物との共生が高齢者にもたらす良い影響をご紹介します。
高齢者にとって動物との共生がもたらす5つの好影響

1. 「自分らしさ」の保持と役割の継続
高齢者が以前から飼っていた犬や猫と一緒に施設に入居できることで、「飼育者」としての役割を失わずに済みます。
この「役割の継続」は自己肯定感を保ち、施設生活でも「自分らしく」過ごすための大きな支えになります。
2. 孤独感の緩和と感情の安定
動物とのふれあいを通して自然と笑顔が生まれ、表情が豊かになる様子が、施設のスタッフによって多く報告されています。
さらに、入居者同士の会話のきっかけにもなり、孤立感の軽減や人間関係の活性化にもつながっています。
3. 日々の生活にリズムと目的をもたらす
動物のお世話や日課(食事・散歩・おやつの時間など)を通じて、生活にリズムが生まれます。
「次はあの子にごはんをあげよう」「今日はどこを散歩しよう」など、生きる喜びや目的意識が芽生えることも報告されています。
4. ペットロス(死別)の心のケアとしての「集団性」
ペットロスは動物を飼っている人にとっては大きな問題です。その点、介護施設では周りにも人がいることで心のケアをしやすいという利点があります。入居者たちと犬や猫の死をともに見守り、悲しみを共有できることは、入居者にとって大きな心理的支えになるのです。
事例となった施設では、亡くなった動物のお骨をしばらくユニットに安置し、入居者が自然に受け入れられるような空間づくりがなされています。
5. 認知症高齢者へのポジティブな効果
認知症の方にとっても、動物との交流が心身に良い影響を与えることがわかっています。
活動量が増えたり、穏やかな表情を見せる場面が観察されており、認知症ケアの一環としても有用であるとされています。
実践例:動物との共生を可能にした施設の取り組み

この論文では、実際に犬・猫と共生可能なユニットを持つA介護老人福祉施設に勤務する4名のケアスタッフへの聞き取り調査をもとに、動物と高齢者が安全に心地よく暮らせるための支援方法が分析されています。
施設の取り組み例としては、以下のようなことがあります。
- 動物のストレスを防ぐため、適切な休憩時間を設ける
- 食事時の接触を制限し、健康管理を徹底する
- ケアスタッフ間で情報共有し、一貫したしつけを行う
- 犬と猫の性質の違いに応じた個別ケアの設計
- 動物の看取りに対して、スタッフ間で感情的な支え合いと学び合いの場を設ける
動物との共生がもたらす人生の豊かさ
高齢者にとって、犬や猫と暮らすことは単なる娯楽や癒しではなく、生きがい・自己表現・人間関係・心の安定に直結する大切な要素です。
特別な医療器具や制度がなくても、「動物と共に過ごせる環境」をつくることが、高齢者のQOLを大きく向上させる可能性があります。
施設での動物との共生は簡単ではありませんが、適切な支援体制とスタッフの理解・協力があれば、高齢者と動物の双方にとって幸せな関係が築けると考えられます。