日本ではペットショップでたくさんのペットが売られています。特に純血種が好まれるため、人気のある純血種を供給する業者もあります。いわゆる繁殖業者です。ペットショップで販売するための猫や犬を繁殖させるために、親猫や親犬を飼育し、子どもを産ませることを主な業務にしています。
しかし、この繁殖業者の中には、悪質な業者もいます。親猫の扱い方や、生まれた子猫の中で商品にならない猫の扱い方が非常に悪いのです。命を扱うのに必要な倫理観が欠けている業者とも言えます。
このような悪質な繁殖業者をなくすためには、業者の自発的な抑制にだけ任せておくわけにはいきません。ペットを迎える飼い主の側にも倫理観が求められます。また、法律で規制することも必要です。
この記事では、倫理学を専門にする大学講師の鶴田尚美さんの論文「『繁殖屋』撲滅へ向けて」の内容を見ながら、悪質なペット繁殖業者をなくすための方法を考えてみます。
われわれは野良雑種だから知らない世界だけどね…
でも猫が閉じ込められたり放置されたり捨てられたりするのはダメだよ
論文「『繁殖屋』撲滅へ向けて ーペット繁殖業者と飼い主の倫理」
この論文では、2021年に長野県で発覚した、約1000匹の犬を劣悪な環境下で飼育していた繁殖業者の逮捕事件を発端に考察を進めています。この事件では、動物福祉の軽視と法令違反、さらには無資格での開腹による帝王切開など、動物の命を軽視した実態が浮き彫りとなりました。
悪質なペット繁殖業者、通称「繁殖屋(パピーミル・キトンミル)」の倫理的問題と、それに対する規制・社会の在り方や構造について、筆者自身の経験と法制度の分析を交えて掘り下げています。
鶴田尚美(2023)「『繁殖屋』撲滅へ向けて ーペット繁殖業者と飼い主の倫理」豊田工業大学ディスカッション・ペーパー27巻,PP.1-26
純血種の繁殖と倫理的課題

近代的な純血種の繁殖は約200年前に始まりました。短頭種やスコティッシュフォールドのように、見た目の可愛い品種が特に好まれて繁殖の対象となっています。
ただし、純血種は遺伝的な疾患を抱えることが多くなります。特に、呼吸器や骨格に障害を抱えることが増えるのです。障害を持って生まれた猫をどのように扱うかが問題となります。
また、パピーミルやキトンミルと呼ばれる商業的繁殖施設では、動物を「製造物」として扱います。そのため、最低限のコストで最大数を産ませることに重点が置かる結果となるのです。こうした施設では、適切な医療も受けられず、ケージに閉じ込められたまま一生を終える猫も増えてしまいます。これも重大な倫理的問題です。
論文の筆者である鶴田尚美さんは、20年近く野良猫の保護活動に携わってきたそうです。その過程で出会った複数の繁殖業者を通じて、「良心的なブリーダー」と「営利のみを追求する繁殖屋」の違いを体感したと言います。
猫を愛情をもって飼育し、遺伝子検査や飼育環境に配慮していた繁殖業者もあるものの、衛生環境が劣悪で猫たちがステンレス製の小さなケージに隔離されていた繁殖業者もあります。販売された猫が事前に予約した個体と違っていたり、マイクロチップ未装着であったりと、法令違反をする業者もあったようです。
ブリーダーとは
鶴田尚美さんは、ペットを繁殖させる「ブリーダー」について、以下のような条件を満たす必要があると考えています。
- 繁殖させる品種を1つに限定し、深い知識と愛情を持つ
- 小規模な飼育環境で、ケージフリーを基本とする
- 遺伝子検査を実施し、健康な個体の繁殖に努める
- 繁殖を副業や趣味の範囲にとどめる
ただし、このような条件を満たすブリーダーは多くありません。
2019年に改正され、2022年までに段階的に施行された、動物の愛護及び管理に関する法律(動愛管法)では、繁殖業者に対する規制が定められています。ただし、上記の鶴田尚美さんが考えるブリーダーの条件には至っていません。
主な規制は以下のようになっています。
- ケージサイズの基準化(猫が立ち上がり、方向転換できる広さと高さ)
- 飼育上限数(1人当たり30匹まで)
- 年齢・繁殖回数の制限(猫は6歳まで、最大10回)
- マイクロチップの義務化
- 繁殖リタイア個体も業者が終生飼養することの義務化
鶴田尚美さんはこれらの規制を基本的に評価しつつも、業者が数十匹を適切に飼養できるとは考えにくく、さらに厳しい管理や実効的な査察が必要だと主張しています。
「繁殖屋」は動物を金儲けの手段としか見ず、劣悪な環境に閉じ込めて酷使していると言えます。飼育環境や情報公開が誠実になされているかを確認できるようにすることが必要です。
購入者の責任
悪質な繁殖業者がなくならない背景には、無知や無責任な購入者の存在もあります。論文では、特に初心者に対して雑種の譲渡を勧めています。その理由は以下のようなものとされています。
- 雑種の方が遺伝的疾患が少なく健康で長生きしやすい
- 飼育放棄された動物が多数存在し、保護が必要なため
- 純血種には手間や費用がかかるため、軽い動機で飼うべきではないから
流行や芸能人の影響、見た目の可愛さで飼い始める人が多いのも問題を生んでいます。軽い動機で飼い始めた結果、ネグレクトや多頭飼育崩壊、殺処分につながる事例が多いためです。
鶴田尚美さんは、購入時に去勢避妊を条件とすることや、ペット税・飼い主登録制などの強い規制導入も検討すべきと考えています。特に純血種の飼育に関しては、適切な知識と覚悟を持つ者だけが行うべきだと主張しています。
生体販売の是非

日本では生体展示販売が一般的に行われています。ペットショップでの子猫や子犬を展示して、お客さんに見せたり触らせたりして、購入を促す販売方法です。
動愛管法改正により規制は強化されましたが、まだまだ販売しているペットの扱いが問題になることが多くあります。
生体販売の問題点
生体販売自体が悪いものであるとは言い切れませんが、生体販売によって引き起こされている問題は多くあります。
道徳的・倫理的懸念
まず、命ある動物を「商品」として扱うこと自体が問題視されています。ガラスケースに閉じ込めて展示する行為が、猫や犬のストレスや発育不全を引き起こすことも問題です。
また、商品なので流行があり、その品種や個体の可愛さが主な購入の理由になります。購入を迷っているお客さんがいれば、店員が無理に抱かせたり、感情をあおったりして、購入を促す手法も広く用いられています。
その結果、衝動買いされやすい状況が生まれているのです。そして、衝動的に購入されたペットは、飼育放棄につながる確率が高い傾向にあります。「ローン販売」や「リース契約」など金銭的に無理をする購入方法を促されることも、後からペットを手放す飼い主が生まれやすい原因になっています。
少し問題のある行動をしただけで、少し病気になったり障害を持っているだけで、さらには育ったからという理由で、簡単にペットを手放そうとする飼い主がいるのです。もちろん、ペットを手放す飼い主が多ければ、それだけ殺処分の問題にも大きく影響します。
流通・繁殖過程での問題
ペットの販売が広く行われていれば、そのペットを商品として供給する業者も必要です。その中で、子犬や子猫を大量生産する「繁殖屋」が絶えないことが問題になります。
悪質な繁殖屋では、以下のような事例が多くみられます。
- 劣悪な環境で繁殖させられる
- 親は長期間ケージに閉じ込められ、健康管理も不十分
- 繁殖を終えた動物は処分・遺棄される
- 生後56日以前に親元から引き離されて販売される
- 社会性が未発達なまま人間の家庭に送られ、問題行動やストレスの原因となる
これらに対する法的な規制も強化されていますが、守られていない場合も少なくありません。監視方法や罰則規定が弱いこともその原因のひとつとされています。
動物愛護管理法の主なポイント
2019年に改正された動物愛護管理法の主なポイントを紹介します。ペットを迎える際には、ぜひこれらの点が明確に守られているペットショップであるか、繁殖業者であるかを確認してください。
動物取扱業者(ブリーダー・販売業者)への規制強化
- 登録拒否事由の追加:過去に動物虐待や法令違反があった者は、第一種動物取扱業の登録が拒否されるようになりました。
- 遵守基準の具体化:飼養施設の構造・規模、環境の管理、繁殖の方法などについて、環境省令で定める遵守基準が具体的に明示されました。
- 販売場所の制限:犬・猫の販売は、事業所に限定され、対面での情報提供が義務付けられました。
- 帳簿の備付け義務の拡大:動物の取扱いに関する帳簿の備付け義務が拡大され、業者の透明性が求められるようになりました。
犬猫の販売・繁殖に関する規制
- 販売日齢の規制:生後56日(8週)を経過しない犬・猫の販売等が制限されました。
- 繁殖制限:適正飼養が困難な場合の繁殖防止が義務化され、無秩序な繁殖を防止する措置が講じられました。
マイクロチップの装着義務化
義務化の対象:犬猫の繁殖業者等に対し、マイクロチップの装着・登録が義務付けられました。 
所有者の届出義務:登録を受けた犬猫を所有した者には、変更届出が義務付けられました。 
動物虐待・遺棄に対する罰則の強化
- 殺傷行為:懲役5年以下または罰金500万円以下に引き上げられました。
- 虐待・遺棄:懲役1年以下または罰金100万円以下に強化されました。
行政の監督・指導体制の強化
- 動物愛護管理センターの業務規定:動物愛護管理センターの業務が明確化され、動物取扱業の登録・監督、動物の飼養者への指導・助言、特定動物の飼養許可などが規定されました。
- 動物愛護管理担当職員の拡充:都道府県等における動物愛護管理担当職員の配置が拡充され、監督体制が強化されました。
その他の改正点
- 獣医師による虐待の通報義務化:獣医師に対し、虐待を発見した場合の通報が義務付けられました。
- 所有者不明の犬猫の引取り拒否:都道府県等が、所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合が規定されました。
環境省「動物の愛護と適正管理」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/
改正法の概要(PDF)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/kaisetsu_r4.pdf
動物取扱業者の遵守基準(解説)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/arikata/
生体販売の禁止
悪質な繁殖屋が生まれる原因の一部に、生体販売があることは確かです。日本で直ちに禁止すべきかについては議論が必要ですが、ヨーロッパを中心に生体販売を禁止している国もあります。
| スウェーデン | ペットショップでの犬・猫の生体販売は禁止。繁殖も厳しく規制。 |
| ノルウェー | ペットショップでの犬・猫販売は禁止。購入はブリーダーや保護団体からのみ。 |
| オランダ | 猫や犬などの一部動物種でペットショップ販売禁止。 |
| ベルギー(ワロン地域) | 2024年以降、犬の販売を段階的に禁止。最終的に保護施設からの譲渡のみを目指す。 |
| フランス | 2024年からペットショップでの犬・猫販売を禁止。購入は登録ブリーダーまたは保護団体からのみ。 |
| スイス | ペット販売は原則ブリーダーから。ショップ販売は厳しい制限あり。 |
| イギリス | 2019年からペットショップでの犬・猫販売禁止。ブリーダーか保護施設からの購入のみ可能。 |
| アメリカ(カリフォルニア州など) | 複数の州・市でペットショップでの犬猫販売を禁止。 |
これらの国に共通しているのは、商業的な「生体販売」を抑制し、シェルターや保護団体からの譲渡を促進しようとしているところです。そのためには、法規制だけでなく国民の動物福祉意識の高さも必要だと思われます。
繁殖屋撲滅のために
「繁殖屋」を撲滅し、健全な動物飼育社会を築くためには、さまざまなことが必要です。現状から考えてみると、厳格な法規制の整備と実効性の確保、良心的ブリーダーの基準設定と普及、飼い主の倫理観と飼育責任の徹底を進めなければなりません。また、保護譲渡を推進するとともに、生体販売の見直しも考えなければならない問題でしょう。
現行の法律では繁殖業者の監視や情報公開に関する規定は不十分ですが、飼い主として、目に見える範囲だけでもしっかり確認したいものです。

